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小説「太陽の坐る場所」 [書評・映画評]


太陽の坐る場所

太陽の坐る場所

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/12
  • メディア: 単行本


高校卒業して10年後、ある年より毎年行われているクラス会に今年も参加しない同級生がいた。人気女優となった「キョウコ」。天照大神を天の岩戸から引きずり出すアメノウズメ役として鮮烈な映画デビューを果たし、TVドラマでもひっぱりだこ。同級生達にとってはキョウコの方こそが岩戸に隠れて出てこないアマテラスに見えてしまう。
クラス会幹事と彼に親しい数名がなんとかしてキョウコをこの場に引きずり出そうと計画した。
しかし彼らこそ、現在及び過去に岩戸の中に隠し続けている物があった。

高校時代、彼らの中心は響子だった。中学時代に塾で出会った男子を追いかけて同じ高校に入学した響子は文字通り女王だった。取り巻きの女子達、そして彼氏とその友人。すべては響子を中心に動いていた。
あるとき事件が起きた。取り巻きだった女子の一人が一昼夜体育倉庫に閉じ込められるという事件が。何も語らなかったが皆が気づいていた。響子の怒りに触れて制裁を受けたのだと。
女王の権威は落ちた。響子自ら岩戸に隠れることになる。どこにいても太陽は太陽だと。

物語は5人の人間がそれぞれを主人公として過去と現在、響子に関係する高校時代と、女優キョウコを呼び出そうとする今が語られる。最終章は響子本人の物語。
キョウコを岩戸から引きずり出そうとした彼らが順に自ら崩壊して舞台を降りていく。最終章、キョウコが初めて参加したクラス会に他の4人とその中の一人と密接な関係を持っている友人1人は姿を現さない。

最終章の一つ手前の章で作者の罠があかされる。読者は見事にミスリーディングをしていたことに気づかされる。読み返せばきちんと伏線は引かれていた。気づいてもよさそうだったのに。青春小説に見せかけて実はこれはミステリーだった。

某ゲーム雑誌の紹介記事でこの本のことを知った。ラスト近くに読者を愕然とさせる仕掛けがあると書いてあったのだから用心して読み進めていたのだが見事に引っかかった。

高校卒業して10年後というのはある意味中途半端かも知れない。それぞれの人間が自分たちの位置を確立し切れていない。既婚者もいるけれどまだ家庭は不安定。独身者はそろそろあせりだす。仕事が順調に動き出したように見える者も実際にはまだまだ不安の中で仕事を続けている。そんな揺れる心の中で高校時代のしこりがトラウマのようにのしかかってくる。そろそろ過去に訣別を告げるとき。この物語はそれぞれの人物のターニングポイントを描いた物語と言ってもよい。もっとも舞台から消えてしまった5人がその後どうなったのか気になるところ。もう少しフォローがあってもよかったと思うのに。



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