書評「甘栗と戦車とシロノワール」 [書評・映画評]
甘栗晃、高校2年生。私立探偵の父親と二人暮らしだったが、不慮の交通事故でその父が急死する。
探偵事務所を整理中、父の最後の調査の仕事の依頼人がやってくる。生意気な小学生の女の子。
礼金として先にもらっている金貨が見つからず、成り行きで父の調査の続きを行う事に。どうして父がこんな少女の依頼を引き受けたのか。
父の知り合いである女探偵の協力もあって見事に調査を終了させるが、そこには悲しい秘密が隠されていた。
以上が前作「甘栗と金貨とエルム」のあらすじ。
父の死で高校を退学するつもりだったのが、届けも美術部退部届も担任教師によって握りつぶされていた。美術部員で同級生の女子や幼なじみで自分をからかっているとしか思えない悪友の縁もあり、彼は高校に復帰するところから続編が始まる。
世話になった女探偵の手助けをすることはあっても、自らが探偵業を行う事などまったく思ってもいなかったのだが……。
ある日同じ学校の同じ学年の生徒が人捜しの依頼にやってくる。前作での調査途中に出会った人から腕の良い高校生探偵がいると聞かされたようだった。第一印象は「戦車」!威圧感たっぷり。それもそのはず、中学時代は「名古屋最凶の中学生」と呼ばれ、不良グループのトップだったと。なぜか卒業間際に「夢」を叶えるためにグループから縁を切り、猛勉強のすえこの学校に入学したとか。
それでもいつ暴れるかわからない生徒で、一旦は断るのだが、巨体で土下座までされては話を聞かないわけにはいかなかった。どうやら彼の生き方を180度変えてくれた恩師である女教師が失踪しているとか。
雲をつかむような話だがそれでも調査は進んでいったが、ただではすまない事態が待ち受ける。
裏金融会社や名古屋最悪の暴力団まで関わっている事件まで関係し、主人公の言葉で言うならば、「暴力団に捕まってどこかの倉庫に連れ込まれて殺されかけた」というとんでもない事態まで巻き込まれる。まさにハードボイルド。彼は自嘲してつぶやく。何やってんだろ俺。
失踪事件に潜む謎。元最凶中学生だった戦車男はおとなしく主人公に従うのか。一触即発のまさに綱渡りの物語が展開する。
初版発行が平成22年2月25日。楽天でチェックしていて、本屋に並んだと同時に購入したのに、買ってしまうと安心して読んだ気になって今日まで積ん読状態。太田忠司さんの本はこういう状態なのがあと3冊はある。困った物だ。
探偵をやる気のない高校生が成り行きで探偵業をやってしまう。かなりの能力は持っている。知り合いの女探偵はそのことを知っていて彼にいろいろ声を掛けてくれる。
奇妙な友人もいるが、探偵業とは無関係な友人。その距離感は微妙。そういう設定も珍しい。
作者が在住する名古屋を舞台にしたシリーズは4シリーズあるが、そのうちの3シリーズがリンクしている。元巡査の阿南シリーズは完結したが、そのシリーズに女探偵藤森涼子がからんだりもする。そして藤森涼子シリーズとこの甘栗晃シリーズは相互リンクで、それぞれのシリーズにお互いが登場したりする。この2シリーズはまだ続いている。ちなみに藤森涼子シリーズの第1作は現在入手不可能になっている。形態がジグソーパズルの裏面という特殊な形態で個数限定版ということなのだが。
甘栗シリーズまだまだ続くのだろう。彼の探偵課業は今始まったばかり。
しかし、素人高校生が探偵なんてやるもんじゃない。銃を突きつけられて殺される直前までいくんだから。そして結果の報酬がシロノワール1個。まあ彼が望んだ報酬だからいいけれど。
前作も今作も最終的な結論は出ていない。仕事は果たした。後の問題は自分たちで何とかしろ。突き放した部分がある意味現実的か。探偵はそこまで責任は持てない。持てるはずもない。それが現実。