映画「アントキノイノチ」 [書評・映画評]
作中、「あのときの命」って何度も言ってごらん。というセリフが出てくる。
繰り返してつぶやく彼女に彼が言う。ほら、プロレスの人の名前に似てるだろ。
言われなくても、普通、見ただけでというか、一言聞くだけで想像してしまう。
でさらに言えば、プロレスの人じゃなく、その物まねをする人の方を
先に思い浮かべるが。
予告編ではその場面で、二人が海に向かって「元気ですかーー」って叫んでいる。
てっきり悲しみをもつ人に元気を与える物語だと思い込んでしまうのだが、
しっかりだまされた。最初から最後まで暗い物語だった。少しも救われない。
高校時代に2件の命に関わる事件に遭遇し、心を病んでしまった青年が主人公。
ようやく薬を飲まないでもいけるようになって就職した先が遺品整理業。
そこで同年配で彼より2年長く勤めている彼女と知り合う。彼女もまた
高校時代に命に関わる事件の後遺症で苦しんでいた。
遺品の整理で、その亡くなった人の生きていた時の証しに出会い、あのときの
命が今の自分に繋がっているという悟りを得て青年は立ち直るが、彼女の方は
遺品整理で悲しい過去に向かいきれずに逃げ出してしまう。
そして何でこんな終わり方なんだよ、というラストを迎える。
悟りを開いた青年はそれをも受け止めていけるようになっていったが。
普通、こういう場合は鬱病が再発してまたまた引きこもりになるんじゃ
ないだろうか。
悟りを開いたらもうそれで十分、という、いわゆる安っぽい宗教映画にしか
見えない。
きわめて後味悪い映画だった。原作を読む気になれないのは、おそらくは
原作者にそういう宗教っぽい理屈があるからかもしれない。
あれで立ち直れる青年なら、元から楽天家なんじゃないだろうか。
映画を見終わって数日経っても、嫌な気分だけが残る映画だった。最低。
追記です。
映画専門ページを後で見てみると、どうやらこの映画は原作を大幅に
変更しているようです。原作はもっといいそうですが、映画監督が
自分の勝手な思い込みで設定やらラストやらいろんな部分を変更して
しまっているようです。
そのせいで、原作では感動できる物語が最悪な映画になってしまっている
ようで、原作は読む価値があるとか。
つまりは映画化失敗作ということですね。