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書評「Red」 [書評・映画評]


Red (中公文庫)

Red (中公文庫)

  • 作者: 島本 理生
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/09/22
  • メディア: 文庫


映画を見て気になって原作を読んでみた。
びっくりです。映画と原作は全然違うと言うことに。
基本は同じなんだけど、言ってみれば、肉を全部そぎ取って骨格だけにして、そのまま映像にしたのが映画という感じ。そぎ取った部分が大きすぎる。

原作と映画とどこが違うかを言うよりも、どこが同じなのかを言う方が早い。

映画で登場する主要な人物はほとんど原作にも出て来る。あっ、食事に立ちよった店の夫婦は原作にはいないが。
主人公が裕福な家庭の一人息子のボンボンと結婚して一人娘ができて、預けるところがなくて退職。でも仕事がしたくて、10年前の愛人と再会して彼の紹介で再就職。そして不倫関係が再び始まる、というのは変わっていないが。

同じなのはそれだけかも。映画では豪雪の中で、男女が黙ったまま、どこへ向かうか見ている者には不明な車の中での状況から、さかのぼって過去から現在が語られていくが、確かにこの場面あるにはあるが、物語の中で流れで出て来る場面なだけで、それ以上に深い意味などない。まあ原作でもクライマックスに向かう重要な場面ではあるが。

大きく異なるのが、この主人公、基本的におしゃべりである。小説自体が会話劇で、のべつまくなし会話をしている。映画ではこの原作の会話部分を9割方カットしたような。だからまったく違った物語になってしまう。さらには主人公にはおしゃべり友だちの親友がいるが映画では友人関係をすべてカットしてしまった。もっといえば、原作で10年前の愛人と再会するのがもう一人の友人の結婚式なのだが、映画ではわけのわからないパーティーで、元愛人がどうしてそこにいるのかが不明。そして再会後の関係もめちゃくちゃ不自然。

映画はR-15指定だけれど、原作をそのまま映像にすると完全なR-18の成人映画になってしまう。それではまずいと思ったのか、極力カットし、映像でもボカシが一切かからない、映してはいけない女優の体も映さない、中途半端な仕上がりになって、これだと最初からすべて、R指定にならない作品にしてもよかったのではと思ってしまう。

一人娘も映画だと年長さんにしか見えないが、原作では2歳という。まあそれにしてはよくしゃべるし、行動もとても二歳児には見えないが。
主人公の仕事内容も全然違っている。まあそれはたいした問題ではないが。

原作小説は、エピローグ直前で終わっても成り立つ構成。それでもよかったかも。それだと不条理劇で、もやもやが残ったままになっただろうが、それもありな物語構成。
ところがエピローグがついたとたん、この物語は完全な回収がなされていく。もやもやがすべて消し飛んでいく。
エピローグでは本編の10数年後に、一人娘が思春期を迎え、あの時のあれは一体何だったのかと振り返る設定になっている。このエピローグを中心にして、過去を振り返るという形の物語あるいは映像でもよかったかも。もちろん娘の視点ではR指定部分はありえないのだが。

まあ、原作を読んでから映画を見た人は、たぶんほとんどの人が、がっかりするんじゃないだろうか。特にラストの違いは耐えられない。映画だともやもやが残ったままになるだろう。

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